三陸鉄道南リアス線吉浜駅から、車は上へ上へと上がる。釣り客に人気の民宿だというのに、どんどん海から遠ざかっていくようだ。というのも、この吉浜は、過去の津波の教訓から集落を高台へ完全移転させ、今回の津波で犠牲が少なかったために「奇跡の集落」と呼ばれた地区。民宿「小松荘」も、吉浜湾を見下ろす高台にあった。この宿のお目当ては、ご主人が釣ってきたばかりの新鮮な海の幸。そして三陸ワカメのしゃぶしゃぶだ。豪快な海の膳にお酒も進む。

 

三陸の海を見下ろす宿で、
水揚げされたばかりのホヤや生ウニを味わう贅沢

日本庭園もある立派な造りの建物は、かつて親戚が別荘として建てたものだとか。民宿小松荘のご主人・相沢義則さんがそれを買い取り、宿を始めたのが33年前。東京で会社勤めも経験されたが、故郷にUターンし、今では好きな釣りを活かして、釣りたてさばきたての海の幸を存分に楽しませる宿とした。相沢さんの温かい人柄やおいしい魚に惹かれて、海釣り客や家族連れの海水浴客が多く定宿としている。

50名収容の宴会場も備え、食事だけの予約もできる

50名収容の宴会場も備え、食事だけの予約もできる

三陸ワカメのしゃぶしゃぶがおいしいと人に教えられたが、ワカメの収穫時期は春先。旬ではないけれど、小松荘でなら食べられると聞き、お願いした。夕食の食卓に並んだのは、マコガレイやイカの刺身に煮付けなど、世界三大漁場の一つに数えられる三陸の海で育まれた新鮮な近海ものばかりだ。

近海ものの海の幸が並ぶ

近海ものの海の幸が並ぶ

なかでも、なかなか口にする機会の少ないホヤを三杯酢でいただく。ホヤは海から揚げた途端にどんどん鮮度を落とすため、内臓物の臭みがすぐに身に移ってしまう。いただいた新鮮なホヤには、以前に食べた時のような妙なえぐみも生臭さもなかった。そして、鉢にたっぷり盛られた生ウニ。海水の程よい塩味に、何もつけずにいただいてみる。とろんとろんと舌の上を滑って、喉に落ちていった。ウニは夏がシーズンだが、いつでも自由に獲っていいわけではない。シーズンに数回「開口(かいこう)」と呼ばれる漁の解禁日があり、漁業権を持っている舟だけが決まった時間だけウニ漁ができることになっている。もちろん資源保護が目的で、そのため獲ったウニも6cmに満たないものは海に帰す。相沢さんも「明日は開口だから」といそいそしていた。

新鮮なホヤは妙な臭みがなく美味

新鮮なホヤは妙な臭みがなく美味

さて、目的の三陸ワカメのしゃぶしゃぶだが、私たち関西人が持つワカメの概念を超えた、まるで昆布のような肉厚の三陸ワカメを、熱い出し汁にさっと通し、ポン酢でいただいた。歯ごたえがいい。この歯ごたえを楽しむためにも、長く火に通しすぎないことだという。三陸ワカメのしゃぶしゃぶは、本当は春先の大きく成長しきっていない“早採り” 生ワカメでいただきたいものだ。茶色の生ワカメを出し汁の中に通すと、一瞬できれいな緑色になるらしい。いつか、その季節のしゃぶしゃぶを味わいたい。

緑鮮やかな三陸ワカメは、歯ごたえ十分

緑鮮やかな三陸ワカメは、歯ごたえ十分

 

午前4時からの釣りに同行
自分で釣ったスルメイカのさばきたてを朝食で

宿に到着した時に、相沢さんに「明日の早朝、イカ釣りに行ってみるかね?」と誘っていただいた。「ぜひ、ぜひ」と、相沢さんの釣りに同行させていただくことにする。午前4時、夜が明け切らぬ時間に宿を出発だ。港へ車で降りる。すべての家を高台に移転させた吉浜の人たちは、海へ漁に出るにも、海岸近くの田畑に行くのにも車で“通勤”している。

小松荘から吉浜湾は遠くに見える

小松荘から吉浜湾は遠くに見える

濡れてもいいようにと釣り用のカッパで全身を固め、長靴を履き、救命胴衣をつけての完全武装で、舟に乗り込んだ。

自称「釣りバカ親爺」の相沢さん

自称「釣りバカ親爺」の相沢さん

そう沖まで行かないところで舟を停め、さっそくリールの伸ばし方、巻き方、針の外し方などを教えていただく。釣るのはスルメイカ。いやいや、最初は入れ食い状態で、重りをつけた糸が海底に届くやすぐに引きがあり、我ながら「どんなもんだ」という気分だったのが、よくよく見ていると、何本もある針にかかっているのは1匹か2匹。相沢さんの竿には一度に数匹かかっているところが年季の違いなのだろう。

最初のうちは面白いようにかかっていたイカだが・・・

最初のうちは面白いようにかかっていたイカだが・・・

2時間足らずで宿に戻って朝ごはん。釣ったばかりのスルメイカが、やや黄色味をおびた透明の刺身になって出された。朝から何という贅沢。夏のスルメイカは小ぶりだが、身がやわらかく刺身に向いているらしい。

朝食に並んだ捌きたてのスルメイカの刺身

朝食に並んだ捌きたてのスルメイカの刺身

送ってもらった吉浜駅で別れ際、「楽しかったかい?」と尋ねられた。いつものことではないが、都合が合えば、こうして宿泊客に声をかけて朝の釣りに連れて行くこともあるという相沢さん。お客さんに楽しんでもらいたいという気持ちが嬉しい宿だった。

 

【民宿 小松荘】

☎0192-45-2210

住所:岩手県大船渡市三陸町吉浜字扇洞10-10

http://minshuku.net/

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