NHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』で、一躍全国にその名を知らしめた三陸鉄道。開業30周年を迎えた平成26年4月、全線で運行を再開させ、復興に向けての一つの象徴的なできごととして、全国ニュースでも大きく取り上げられた。震災直後はあまりの被害の大きさに、存続自体が不安視されたが、長年、三鉄マンたちが大切にしてきた沿線住民とのつながりは切れることなく、再び地域の足として活躍している。三陸鉄道の一期生社員として、三鉄とともに歩んできた南リアス運行部の企画担当課長補佐兼主任運転士の菊池弘充さんにお話をうかがった。

吉浜駅まで初めて運行した日の
住民たちの歓迎に感動

あの3月11日、三陸鉄道の釜石駅で、当時駅長として執務中だったという菊池弘充さん。尋常ではない揺れ方に、待合室にいた乗客を誘導し全職員と避難した。避難してから戸締りをしていないことを思い出し、取って返したところで津波が駅舎に流れ込み、足元を洗われたという。間一髪、避難場所に戻り、身の安全は確保したものの、車は津波に流され、1週間の避難所暮らしを余儀なくされた。

「山育ちの私には、地震直後に津波が来ることを考えつかなかったのだけれど、沿岸部に住む職員に『津波が来る!』と言われて、避難行動をとることができました。釜石東中学校に通っていた娘も無事でしたが、叔父や友人が亡くなり、死生観が変わりましたね」。

南リアス線はより震源地に近いこともあって、津波よりも地震による橋脚の損壊などの被害が大きく再開を心配したと菊池さんは語る。復興事業で高速道路ができたら、住民の方々からはもう鉄道は必要とされなくなるのではないかとも考えた。

「いわて観光おもてなしマイスター」でもある菊池弘充さん

「いわて観光おもてなしマイスター」でもある菊池弘充さん

しかし、平成25年4月、盛駅から吉浜駅までの限定区間だが、南リアス線が初めて再開した日のこと。雨が降っていたにも関わらず、列車は各駅で大勢の住民に迎えられた。若い人からお年寄りまで、ホームの屋根のないところにまで人であふれ、大漁旗を振って歓迎しているのを見たとき、菊池さんは大変な感動に包まれたという。沿線の住民の方は「三陸鉄道が運行を再開したことは本当にありがたかったね。鉄道が動いていないと、子どもの学校や年寄りの病院の送迎に、一家の働き手が手を取られてしまう。それだけ復興に向けての活動が滞るということだからね。家族がそれぞれ、自分で動けるということは大事なことなんだよ」と話していた。多くの住民が待ち望んでいた三鉄の復活だったのだ。

震災後、駅の運営は観光協会かNPO法人に委託され、今は主任運転士としてレバーを握る

震災後、駅の運営は観光協会かNPO法人に委託され、今は主任運転士としてレバーを握る

 

真の復興まで列車内の虎舞は封印
「震災学習列車」で迅速な避難の大切さを伝えて

三陸鉄道は、もともと明治三陸地震が契機となって構想された鉄道だ。被災した地域に救援物資を輸送するために「三陸縦貫鉄道構想」が生まれ、仙台から八戸の間で鉄道が敷かれていったが、結局国鉄の経営悪化により、久慈線、盛線、宮古線の建設は道半ばにして凍結された。その後を第三セクター鉄道として設立された三陸鉄道が引き継ぎ、未開業区間を完成させて、昭和59年(1984)4月に全線開通している。

鉄道のない町に生まれ育ち、高校まで電車に乗ったのは中学と高校の修学旅行の2回だけ、3回目に乗ったのが三鉄への入社試験のためだったと語る菊池さんは、三陸鉄道の一期生社員。「震災前から、三鉄は住民の皆さんに親しまれる鉄道を目指し、安全な列車運行は当然として、イベントでも何でもやっていました」と、菊池さん自身がそのイベント係を多く担ってきた。時には、団体の観光客に喜んでもらえるよう、釜石市や大槌町に伝わる郷土芸能の虎舞(とらまい)を列車の中で舞って見せたことも。三鉄マンの制服姿から漁師姿、そして虎舞と早変わりをしながら、沿線ガイドを行うこともあったとか。大いに盛り上がったことだろう。

漁師姿でガイドも

漁師姿でガイドも

舞手のベテランに教わって虎舞を習得。列車の中で披露していた

舞手のベテランに教わって虎舞を習得。列車の中で披露していた

しかし震災後は、「被災された沿線住民の方々の心情に配慮して、こういったイベントはすべて休止しています」。虎舞のお頭(かしら)を作ってくださった方が津波の犠牲になられたこともあり、自らも舞うことを封印していたが、NHKの番組で『あまちゃん』のヒロインを演じていた能年玲奈さんが盛駅のイベントに参加された折、すぐ近くで舞うことができたのが良い思い出だ。

今、三陸鉄道では、震災・防災を学ぶための「震災学習列車」を貸切で走らせており、菊池さんはそのガイドも務めている。「内陸部や県外から来られた方には、瓦礫も片付けられた今、危機感が伝わりにくくなっているかもしれませんが、一番お伝えしたいことは、自分で考え、迅速に津波から避難することの大切さです。海から遠くではなく、高いところへ。もし、あなたの町で地震がおきたらどう行動すべきなのか、それをお伝えしたいです」。三陸鉄道の列車内での菊池さんの虎舞は、三陸が本当に復興を遂げたときにまた元気に舞っていただけることだと思う。

koisihama

乗客サービスとして、恋し浜駅で2分停車

震災前は恋の成就を願うメッセージが書かれていたホタテの貝殻に、今は三陸の人たちへの応援メッセージが多く残されている

震災前は恋の成就を願うメッセージが書かれていたホタテの貝殻に、今は三陸の人たちへの応援メッセージが多く残されている

 

【三陸鉄道 震災学習列車】

  • 内容:三陸鉄道社員または沿線住民が車内で震災の状況を案内。
  • 料金:1車両につき、55,000円(ガイド料含む)
  • 予約・問合せ:田野畑〜久慈間 北リアス線運行部 0194-52-3411

盛〜釜石間 南リアス線運行部 ☎0192-27-9669

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