大船渡市でこれほどおいしいイタリアンに出会うとは、正直思ってもみないことだった。三陸鉄道盛駅から歩いて5分ほどのところにあるトラットリア「ポルコ・ロッソ」。地元ではすでに大変な人気店で、噂を聞いて初めて訪ねた夜、前菜からドルチェまでの一品一品にこめられたオーナーシェフの深い思い入れに感動を覚えた。再訪の機会を得て、三陸の新鮮な海の幸をパスタで堪能する。

地元産の食材の良さを生かすコンビネーションの妙を
イタリアンで楽しむ

三陸の海から揚がったばかりの新鮮な海の幸、というだけで十分に価値があり、そのまま何も加えずにいただいてもおいしいに決まっている。素材の良さを生かしながら、さらに別の食材との“食べ合わせの妙”を楽しんでいただきたいと語るのは、「ポルコ・ロッソ」のオーナーシェフ・山崎純さんだ。

オーナーシェフの山崎純さん

オーナーシェフの山崎純さん

「旬にその土地で獲れたもの同士は相性がいいんです。合わせると必ずうまくいきますね」。例えば、前菜に入っていた「住田町産ありすポークの低温ロースト 米崎の桃の無糖コンポート添え」は、安全で良質のありす畜産の豚肉に、地元産の桃やリンゴを添えることで、それぞれをそのままで食べるより、さらにおいしさを味わってもらえると話す。砂糖を全く加えていないとは信じがたいとろりと甘い桃のコンポートが、豚肉の旨味を引き出すのに成功している。
同じく前菜に入っていた「アマタケさんの南部鶏のフォアグラ風カナッペ」。これもまた地元・大船渡市で米を餌に育てているという南部鶏のレバーをパテにしたもの。レバー特有の臭みを感じることなく、土台のバケットの一緒にザクザクと頬張った。

前菜。一番左は、野菜のマリネ

前菜。一番左は、野菜のマリネ

「焼きウニと活帆立クリームのスパゲッティーニ」は全く期待の裏切られることのない絶品だった。生ウニが旬のこの季節、さっと焼くことでウニの持つ独特の旨味を生かしつつ、生でいただくより香りが高まっている。活帆立はソースとからめた時の加熱だけだろう、新鮮な身の柔らかさと食感が生きたまま、からんだクリームソースでいただく幸せを味わう。

大船渡市周辺の地元産へのこだわり
生産者の一生懸命をお客さまに伝えたい

「本日のこんなかんじ」と題された黒板の手書きのメニュー表を眺めていると、「ジェノバあたりのバジリコみたいな大葉のスパゲッティ」や「シェフに恋するカタラーナ」など、料理のネーミングが一つひとつ楽しい。「馬車に乗ったモッツアレラ」は、バターをたっぷり含ませたバケットにモッツアレラチーズを載せて焼いたものだ。
「穴子と住田町の村上さんのズッキーニの重ね焼き」「河内山さんの有精卵と大船渡牛乳のポニョポニョプリン風」「米崎の細谷さんのりんごジュレ」などは思わず、村上さんって、河内山さんって、細谷さんって、どんな方なんだろうと想像してしまう。食材のほとんどは、大船渡市のほか、陸前高田市、住田町、気仙町といった地元産だ。料理の修業のために故郷を離れたあとで、田舎で食べていたものがどれだけおいしいものだったのかに気付かされたという山崎シェフ。ただ地元産というだけではなく、おいしいと思う野菜に出会ったら、畑にまで生産者を訪ねていくというこだわりようだ。「料理名に生産者のお名前を入れさせていただいているのは、『おかげさまで』という気持ちなんです。昔は、料理はコックが作っていると思っている頃もありましたが、今は生産者の方が一生懸命に作られた食材をお預かりして、それをお客さまにお伝えするのが役割なんだなと思ったら、『これ、おいしいでしょう?』と何のてらいもなく言えるようになりましたね(笑)」。

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穴子と住田の村上さんのズッキーニの重ね焼き

地元生牡蠣と自家製ベーコンとほうれん草のクリームスープスパゲティー

地元生牡蠣と自家製ベーコンとほうれん草のクリームスープスパゲティー

女性客への心憎い演出をはじめ
ホスピタリティあふれる料理とサービスに感動

大船渡で生まれ育ち、地元の高校ではラグビー部で活躍していたという山崎シェフ。料理の道に入ったきっかけは、「大船渡には彼女とのデートに使えるレストランがなかった」ことだったとか。家出同然に上京し、老舗イタリアレストランや、その後イタリアのローマで修業を重ねた。帰郷し大船渡で「ポルコ・ロッソ」を開業したのが平成10年(1998)1月。店名の由来を尋ねようとして、ポルコ・ロッソが宮崎駿アニメの傑作『紅の豚』の主人公の名前であることを知った。
“デートで使えるレストラン”を意識してか、女性への心憎い演出も。前菜と運ばれてきたバケットはハートの形。ドルチェのポニョポニョプリン風も女性にはハートなのだ。ランチの「スペシャル ドンナコース」の“ドンナ”もマドンナから。女性のために考えられたメニューである。「男性のお客さまのご注文もお受けしますけどね(笑)」。
カウンターに座って、厨房の仕事ぶりを拝見していると、ほぼ満席の調理に忙しく動き回るなかでも、各テーブルのようすへの目配り気配りが細やかなのには驚いた。どれだけの人気店になっても奢ることなく、そしてユーモラスたっぷりの会話でお客を楽しませてくれる。「ポルコ・ロッソ」があるというだけで、いつか再び大船渡市を訪ねよう。そう思わせてくれる一軒だ。

気取らないインテリアが温かく心地よい

気取らないインテリアが温かく心地よい

【トラットリア ポルコ・ロッソ】

0192-26-0801
住所:岩手県大船渡市盛町字町10-1
営業時間:11:30〜14:00、18:00〜21:30
定休日:だいたい火曜日
駐車場:有

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