JR釜石駅から釜石線に乗って十数分。駅舎も改札口もない無人のJR洞泉駅に降り立つ。

釜石方面に戻る形で国道283号沿いを10分ほど歩くと、「創作農家こすもす」の看板が見えた。少し入ったところに大きな公園があり、子どもたちの元気な声が響いている。目に飛び込んできたのは、大樹や太陽、飛翔する鳥、そしてこすもすが描かれた色鮮やかな壁画だ。農家レストランを含めたエリア全体が「創作農家 こすもす」と呼ばれている。ここには数々の物語があった。

食材はすべて、地元産の野菜に三陸の海鮮
素材のおいしさを生かすよう薄味で

レストランに入ると、天井が高く、公園のよく見えるガラス戸から太陽の光が降り注いでいた。何とも明るく開放的で居心地がいい。いただいたのは「こすもす御膳」。メインのエビフライのほか、ナスの揚げびたしや、めかぶとイクラの和え物、ホタテ貝の甘辛煮、厚揚げの煮物など、釜石の海産物も取り入れた家庭料理だ。東北は味付けが濃い目なのかと思っていたが、関西出身の私にも薄味に思える。いや、物足りないのではない。素材の旨みを十分に生かした、やさしい味だった。

こすもす御膳

こすもす御膳

代表の藤井サヱ子さんは「食事は“生きる力”のもとですから、身体に良いものを第一に考えています。まず栄養のバランス、そして味付けは薄めに。そのほうが食材の味もよくわかるんですよ。そして、食べる時に『おいしそう』と思ってもらえるように盛り付けにも工夫しています」と語る。食材は、基本的に地産地消だ。野菜はすべて、自分たちの畑で採れたものか、地元の農家が作ったもの。ホタテ貝やめかぶは、もちろん三陸産。化学調味料などは一切使わない。まさに、家庭のお母さんが家族のことを大切に考えて作るのと同じだ。最近は若い人たちにも喜ばれるものをということで「緑のオムのせハヤシ」や、肉類が食べられない人のための「野菜カレー」、そして週末限定の「パスタセット」(金曜〜日曜のみ)などのメニューもある。本格的な石窯で焼くピザは、人手不足もあって、10名以上での予約があれば受け付けているとか。自分たちでピザ作り体験もできるというので、幼稚園や児童会などの団体での予約が多く好評のようだ。

緑のオムのせハヤシ

緑のオムのせハヤシ

煙で燻し渋を抜く地元産の甲子柿
その甘みを生かしたドレッシングが大人気

うかがう前から気になっていたのは、釜石市の特産品・甲子柿を使った「甲子柿ドレッシング」だ。創作農家こすもすのオリジナル商品である。甲子柿は渋柿だが、その渋抜きの方法が変わっている。室(むろ)の中に入れ、煙で7日ほど燻し続けるという。橙色だった柿が室から出ると、美しい赤色の姿を現わす。季節外れのこの日は、冷凍していたものを一ついただいた。とろ〜りとして、とても甘い。なにも加えずとも、これだけで十分にデザートの一品のようだ。この甲子柿を原材料に、人工添加物を一切使わずにドレッシングに加工しているため、健康志向の高い方に人気で、次の季節を待たずに品切れになるということだった。

年々、生産量が減っているという甲子柿

年々、生産量が減っているという甲子柿

藤井さんのこうした身体にやさしいごはんづくりが信頼されて、今では地元の幼稚園とベビーホームの給食まで頼まれている。お母さんが自分の子どもに離乳食を作るように、柔らかく食べやすいように調理するのは当然ながら、アレルギーを持つ子どもには個別にも対応されているのだという。幼稚園の先生たちや親御さんたちからの信頼は絶大だ。藤井さんのごはんを毎日食べている子どもたちからのお礼の手紙が、レストランの壁一面に貼られていた。

給食を届けている幼稚園の子どもたちからの手紙

給食を届けている幼稚園の子どもたちからの手紙

子どもたちに笑顔をと造られた公園に
復興の願いをこめ延べ500人で完成させた「希望の壁画」

もともとは両親の介護のために釜石に帰郷された藤井さんが、実家の田んぼを開墾して3,000㎡のコスモス畑にされたのが「創作農家 こすもす」の最初。その後、地元の野菜や漬物を販売するミニ産直店を開いたりするなかで、みんが集まれる場所が作れたらとレストランをオープンさせたのが、2007年1月のことだ。その頃は、たくさんのこすもすの花に囲まれた農家レストランだったのが、東日本大震災をきっかけに大きく変わることとなった。

「同じ釜石市に住みながら、内陸のこの町は被災を免れ、何か私たちにもできるボランティアはないかと思っていました。町内の公園や運動場に仮設住宅が建ち並んでいくなかで、地元や仮設住宅の子どもたちが楽しく安全に遊べる場所を作ってあげたいと公園を作ったんです」と藤井さん。釜石を訪れていた外国人ボランティアたちの協力で、手作りのすべり台やブランコなどの遊具が次々とできあがっていったという。そして隣接する会社の厚意で、公園正面の工場の壁面いっぱいに描かれているのは「希望の壁画」。タイ在住の画家・阿部恭子さんのデザインをもとに、のべ500人が1年がかりで完成させたものだとか。6月の夏至の夜には「キャンドルナイト」として、鎮魂と復興への願いをこめた2千個のキャンドルが公園に灯される。藤井さんたちの思いがいろんな縁を結び、さらにつながって、つながって広がっていくようだ。料理には、作り手の人柄や思いが映し出されるものなのだな、とあらためて思うレストランだった。

手作りの遊具がいっぱいの公園には、陸前高田市や宮古市などからも子どもたちが遠足でやって来る

手作りの遊具がいっぱいの公園には、陸前高田市や宮古市などからも子どもたちが遠足でやって来る

創作農家 こすもすの皆さん、背景は「希望の壁画」

創作農家 こすもすの皆さん、背景は「希望の壁画」

キャンドルナイト

キャンドルナイト

【創作農家 こすもす】

☎0193-27-3366

住所:岩手県釜石市甲子町5-72

営業時間: 11:00〜16:00(以降は予約で)

定休日:毎週火曜・水曜日

駐車場:有

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