東日本大震災で壊滅的な被害を受けた大船渡市街地。JR大船渡線も流失し、跡形もない。現在は、盛駅と気仙沼駅間でバス高速輸送システム(BRT)が代行運行されており、盛駅から一つ目の大船渡駅に降り立つ。工事中だらけの埃っぽい道を5分ほど歩いたところに立地する「大船渡屋台村」。まだガレキも片づけきれていなかった平成23年(2011)12月に、一日も早い復興を願う町の人たちによってオープンした飲食店街だ。簡易なプレハブの飲食店が20軒ばかり並ぶなかに、「鮨 季節料理 ささき」があった。

7〜8割が地物の新鮮な海の幸に
ひとつ技を加えた逸品が好評

カウンターだけの店内は、開店から瞬く間の間に8席がほぼ満席となった。聞けば、地元の方はお隣の若いご夫婦だけ。ビジネスマン風の男性が一人に、盛岡の友人と合流して旅行でやってきたという東京からの若い女性3人組が陣取っている。

開店前にご主人の佐々木正夫さんに聞いたところでは、地元の方でないお客さんのほうが増えているとのことだった。「復興が少しずつ進み、こうした仮設ではない飲食店も増えてきました。地元の方のなかには、そろそろ仮設ではないところで飲み食いしたいという思いがあるんじゃないでしょうか」。

一方、少しでも復興のお手伝いができればという思いもあるのだろう、仕事や観光で訪れた人たちが多くのれんをくぐる。しかし、たまたま入った風ではない。店の表には写真入りのメニューが並んだうえに、「生ウニ」「穴子」という手書き文字が踊っているのだ。ここならおいしいものを食べさせてもらえるという確信に満ちた表情で入ってくるのが面白い。

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定員8席の狭さが、客同士のコミュニケーションを盛り上げる

実際、その期待を裏切ることはないようだ。7〜8割は地物だという生ウニやホヤ、アジといった新鮮な海鮮ものがメニューに並ぶ。昼食の「海鮮丼」や「おいらのまかない丼」などもたっぷり海鮮が楽しめる人気メニューだが、佐々木さんが自負するのは、新鮮な海の幸でそのまま勝負するのではなく、昆布締めにしたり、漬けにしたり、何か一つ“仕事”をしているところだと語る。

東京・浅草や気仙沼で鮨職人としての腕を磨き、
すしコンクールで優勝の経験も

東京の浅草で9年、気仙沼で17年、厳しいお客さんが通う店で鮨職人として腕を磨いてきたという佐々木さん。

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まずは、佐々木さんのイチ押しで、お客さんの人気もナンバーワンという「穴子つまみ」をいただいた。

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広田湾の天然穴子を塩とタレで

地元の広田湾で穫れた天然の穴子を塩とタレでいただく。ふわっとした口当たりは、一度の煮たうえで焼いているからだという。タレの上にちょんと置かれた柚子こしょうが絶妙だった。

「世界の三大漁場の一つに数えられる眼前の海から今日水揚げされたばかりの新鮮な魚介類をネタに、本場東京の江戸前鮨で鍛えられた技を加える。それがうちのこだわりです」と佐々木さん。それは握りのシャリにも表れていた。ぎゅっと握られながら、口に入れたとたんにふわっと崩れる。空気をほどよく含んだやわらかい握りだ。生ウニは海苔を巻かず、天然塩だけでいただく。思わずうなってしまうのも道理、佐々木さんは全国すし研究会のすしコンクールで「握りの部」で全国3位、巻物の部では優勝という経歴の持ち主だった。

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アジのなめろう

おすすめセットのにぎり

おすすめセットのにぎり

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マンボウのこわた

開業からわずか5か月で店が流失
大船渡屋台村で再起を図る

鮨職人としてのこれだけの腕を携え、故郷の陸前高田市で独立開業したのが、震災5か月前の2010年10月。大津波で店を失い、借金だけが残った。低予算で店を再開できるというので、大船渡市の屋台村に移ったという。時折、陸前高田市時代のお客さんも顔を出してくださるのだとか。こだわりは種類豊富な日本酒。狭い店内にでんと、日本酒のための大型冷蔵庫が据えられている。

「自分自身は医者に止められて飲めなくなったんですが、かつて自分で飲んで納得した銘柄ばかりを、常に30〜40種類は用意しています。おいしい鮨に、おいしい酒を存分に楽しんでいただきたい」。交わす言葉は少なく、無愛想にも見える佐々木さん。しかし、カウンターから「うまい!」というお客の感嘆の声があがると、思わず頬がゆるむのを見た。「お客さまが喜んでいただけるものをお出ししたい」という佐々木さんの言葉には嘘はないようだ。

 

 

鮨 季節料理 ささき

☎0192-26-3719

住所:岩手県大船渡市大船渡町字野々田19-1-A-103

営業時間:平日11:30〜14:00 17:30〜22:00(日・祝日は21:00まで)

定休日:月曜日(祝日の場合は、その翌日)

駐車場:有(屋台村の駐車場を利用)

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