東日本大震災からわずか5ヶ月後の2011年8月に、仮設でオープンした食堂「よってったんせぇ」。当時のメニューはラーメンとカレー、そして焼きそばだけだったが、被災当時の話を聞いていると、この食堂がどれだけ地域の人たちの心を温め、力を与えたことだろうかと思う。食堂の発起人、芳賀カンナさんを大槌町吉里吉里に訪ねた。

 

お店一軒もなく、出かける理由もなかった吉里吉里で
震災からわずか5ヶ月で仮設食堂をオープン

東北大震災でJR山田線の釜石・宮古間がまだ不通のため、釜石駅前からバスで大槌町吉里吉里に向かった。井上ひさしの小説『吉里吉里人』で、その地名に馴染みはあったが、この地が小説のモデルではないらしい。ただ、大槌漁港の沖合に浮かぶ「蓬莱島」は、井上ひさし原作の人形劇『ひょっこりひょうたん島』のモデルだと、大槌町の人たちは信じている(ひょっこりひょうたん島のモデルについては諸説あり)。確かに小さな山を二つ並べた、かわいらしい島の姿は「ひょっこりひょうたん島」そのものだ。

この吉里吉里で広い通りに面して、仮設食堂「よってったんせぇ」がある。ガレキが片付けきらぬ間のいち早い開業だったため注目され、さまざまなところで紹介されてきたが、あらためて「よってったんせぇ」開業への思いを、芳賀カンナさんにうかがった。

「弟の家も仲間の家も流され、小さい頃に遊び場にしていたこの一帯がガレキの山でした。お店一軒なく、家の流された跡をただ歩くのも気が引けて、みんな家や避難所から出かけられない状況にあったんです。出かけて行くところも、目的もなかったんですよね、あの頃。そういう時はモノではなく、椅子ひとつでもあって、ちょっと腰をかけたり立ち止まって話ができる場が必要なんじゃないかと思ったのがきっかけでした。『どこに避難しているの?』『元気だったの?』『よってったんせぇ(寄って行ってよ)』と声を掛け合うなかで、私はこうして生きているよと誰かに伝えたい思いがあったんです」。

さらには、「全国から多くの支援が寄せられ、『ありがとう』『すみません』と言ってばかりの2ヶ月を過ごして、自分の意思で、自分の財布からお金を出して欲しいものを買い、食べたいものを食べるといった当たり前のことが嬉しかったりしたんですよ」と芳賀さん。マスコミの報道からは知らされようもない、遠く離れた私たちには見えない、震災直後の被災地の日常の中でのいろいろな思いから、この食堂が生まれたのだろうと思った。

店内の様子

店内の様子

仮設食堂「よってったんせぇ」外観

親しみやすく開放的な食堂には、復興ボランティアの人たちも多く訪れた

被災を免れたワカメのラーメンが看板メニューに
支援の輪が広がって生まれた新メニューも

芳賀さんたち兄弟が海の家をやっていたこともあり、最初から食堂をやろうという発想で「よってったんせぇ」はスタート。吉里吉里には震災前から、ワカメ養殖をしていた漁師の妻たちが中心となって、加工品の製造・販売などの活動をしていた女性グループ「マリンマザーズきりきり」があり、芳賀さんはそのメンバーの一人だった。協力してもらえないかとメンバーに声を掛け、6人で立ち上げることに。幸いにも手元に津波に流されなかったワカメ15kgが残っていた。それを使って作った“わかめラーメン”は、今も「よってったんせぇ」の看板メニューだ。同じく吉里吉里のワカメの入った“海鮮スープカレー”は、ホタテでとったダシがとても効いていて、これもまた後をひく旨さだった。

岩手県奥州市のフランス料理店「ロレオール」のオーナーシェフ・伊藤勝康さんの「大槌町でしか食べられないメニューにこだわった方がいい」というアドバイスと、レシピづくりの協力を得て誕生したのが、「鮭子(おやこ)焼きそば」。大槌産の鮭とイクラを使用しているほか、隣の山田町にあるうどん店「釜揚げ屋」特製の麺には、ワカメが練りこまれている。寄贈された南部鉄器製鉄板は、温度が均一にまわるので焼きムラもなく、イクラを潰したエキスを麺にからめて、鮭とイクラの旨味を余すことなく味わう一品となった。

わかめラーメン

わかめラーメン

海鮮スープカレー

海鮮スープカレー

みんなを喜ばそうと気負わなくていい、
たった一人が喜んでくれればそれでいい

ドアも窓もないこの店は風通しがいい。ただ通りを歩く人にも「お茶を飲んで行かない? ちょっと話をしていかない?」と声を掛けてきた。「この吉里吉里の人たちに育ててもらったから、地域のために何かがしたかった。昔から自分がやらなきゃ、頑張らなきゃ。何かをするなら成功させなきゃと自分にプレッシャーをかけることが多かったけれど、震災を経て、私自身が変わったことは、みんなに喜ばれなきゃと思わなくていい、目の前の一人の人が喜んでくれたら、それでいいんじゃないかと思えるようになったことですね。東北の人は我慢強くて、助けを求めず、自分でひたすら何とかしようとするところがあるけれど、いろんなことを得意とする人がいて、困った時には得意なことを活かせばいいし、助けてくれるという人には甘えていいんだなということを知りました」と語っている。

震災から4年半。吉里吉里の人たちのオアシスのような役割を果たしてきた「よってったんせぇ」も、復興工事が進み、町が再生されれば、もう仮設店舗のままではいられない。将来的には、本格的な店舗に移行するのか、閉めるのか、決断しなければならない時が来ると芳賀さんは語る。もしこの先で、今の形の「よってったんせぇ」がなくなっても、吉里吉里の人たちの心から消えることはないのだろうなと思った。

わかめかりんとう

「マリンマザーズきりきり」のみなさんで作っている“わかめかりんとう”

 

【よってったんせぇ】

☎0193-44-2838

住所:岩手県上閉伊郡大槌町吉里吉里2-2-16

営業時間: 11:00〜14:30

定休日:月曜日

駐車場:有(10台)

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