南北に800mにわたって延びる浪板海岸。震災前は遠浅の浜で知られ、夏になれば多くの海水浴客で賑わったという。サーファーにも人気のスポットだ。その浪板海岸を一望できる高台に建つ「さんずろ家」。幸いにも津波による被災を免れ、いち早く再開できた飲食店である。遠くから訪れたボランティアの人たちや地域の人たちを温かい食事でお腹だけでなく、心も満たしてきた。海の幸を使った岩手の郷土料理「浜ひっつみ」を楽しみに訪ねてみた。

 

しゅうり貝ことムール貝やホタテ貝、マツモなど
三陸の海の幸をひっつみと楽しむ

「道の駅やまだ」からバスに乗り、美しい浪板海岸を望むバス停「浪板」で降りた。残念ながら雨に煙っているが、晴天ならどれだけ美しい海が望めただろうと思う。国道45号沿いに建つ「さんずろ家」はすぐ眼前が海で、店内からの景観の良さも一つの魅力となっている。

店内から船越湾を望む

店内から船越湾を望む

三陸の海で獲れた新鮮な海の幸を楽しむメニューが並ぶが、なかでも女将・台野純子さんのいち押しは「いかめし」だそうだ。「ニンジンと煮たシイタケの混ぜご飯をイカに詰めて焼き、餡をかけています。蒸しているのと違って、イカのしっかりとした食感をそのまま楽しんでいただけると思いますね」。定食にすれば、味噌汁と小鉢が2〜3品ついてくる。

新鮮なスルメイカで作られるいかめし

新鮮なスルメイカで作られるいかめし

さて、お目当ての「浜ひっつみ」は、豪快にカニやエビ、ムール貝などが入って海の香りに満ちていた。「ひっつみ」というのは、引っ張って薄くのばす意味の「ひっつむ」から由来するもので、小麦粉を練ったものを平たくのばしたものを汁に入れた岩手県の郷土料理だ。通常は野菜と鶏肉を具材としていることが多い。「さんずろ家」にも、浜ひっつみとは別に、ひっつみもメニューにある。

上に載っている海藻はマツモ。関西ではあまり馴染みがないように思ったが、焼き海苔のように平たく板状にした焼きマツモが、百貨店で売られているらしい。北海道や三陸といった北の海の岩礁で生育する海藻で、海流や海温などのわずかなことで質が変わるという。松の葉を思わせる形から「マツモ」と呼ばれているようだ。浜ひっつみで、生のマツモを楽しむ。ねっとりとした食感が特徴で、口の中に広がる磯の香りがいい。また、フレンチやイタリアンでポピュラーな食材のムール貝が、三陸では「しゅうり貝」と呼ばれる特産品だと知って驚いた。

浜ひっつみ

浜ひっつみ

郷土料理でいえば、イカの内臓を味噌で焼く「いか腑入り」もこの地域の家庭で昔から親しまれてきた一品である。新鮮なイカを手に入れたら、塩辛や腑入りにして内臓までおいしく食べ切ってしまうのだ。

 

津波による被災を逃れていち早く再開
地域の人たちの心の休み処にもなって

目の前が海だというのに、高台にあったため「さんずろ家」は津波の被害からは免れ、水道が復旧した5月には営業を再開させたという。

「メニューはワカメラーメンだけの再開でした。毎日がすごく混乱していて、当時の細かいことはあまり覚えていませんが、ボランティアさんらしい方々がよくいらっしゃっていたほか、ご家族を探して遺体安置所を巡っている方々が寄られたりしていました。それに、地域の人たちも毎日、誰かが『疲れた』と言って寄ってくださるので、店を休むことができませんでした。『おじや作っているから、食べていって』と声をかけたり、冷凍庫に残っていた食材を持っていってもらったりもしましたね。あの頃、自分にできることは一つ、このお店を開いていることしかなかったんです。今日できることをやる、それだけでした」と台野さん。

眼前の浪板海岸は、遠浅の海水浴場に適した白浜だったのが、東日本大震災で地盤が沈下し、船が係留できるほど水深が深くなってしまったという。「たくさんの方に三陸にお越しいただいて、自分の目で見て聞いてお帰りいただきたいです。見に来られた方には、必ずお役に立つと思います。何かあった時に自分で行動することができると思いますね」と語られたことに、思わず深くうなずいた。

女将の台野純子さん

女将の台野純子さん

民宿も営む「さんずろ家」

民宿も営む「さんずろ家」

浪板海岸

浪板海岸

 

 

【さんずろ家】

☎0193-44-2413

住所:岩手県上閉伊郡大槌町吉里吉里13地割9-22

営業時間:11:00〜14:30、16:30〜20:00

定休日:月曜日(祝日の場合は翌日)

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