岩手県下閉伊郡山田町に、おいしいうどんを食べさせてくれるお店があると聞いた。その名も「釜揚げ屋」。「讃岐うどんにも負けてないですよ」の言葉に、この体に半分流れている讃岐の血が騒ぐ。訪ねる日を楽しみにしていたところ、その前日にうかがった大槌町の仮設食堂「よってったんせえ」の特別メニューの麺もまた、「釜揚げ屋」で製麺されたものだと聞き、麺作りではかなり知られた店らしいと期待をさらに膨らませてうかがった。

 

数少ない本格派うどん店として
近隣の町にファンを広げて

うっかりかつての仮設店舗の住所をタクシーの運転手さんに告げたところ、隣町からの乗車だったにもかかわらず、「そのお店は本設に移転されたはずですよ」とすぐに返してくれた。後で、店主の川村芳宏さんにうかがうと、お客さんの7〜8割は周囲の町から来られる方だという。「岩手県に蕎麦の文化はあっても、うどんを食べる文化がなかったので狙い目だと思ったんですが、30年前に開業した時は『なぜ、うどんなの?』とよく言われました(笑)。今でも、このあたりでは本格的な手打ちうどんを食べられる専門店が少なく、宮古市など近隣の町から食べに来てくださいます」。

店主の川村芳宏さん

長く子どもたちのミニバスケットの指導にあたり、県大会で二度の優勝に導いたという店主の川村芳宏さん

本設の店舗を建設し移転したのは1年前の2014年9月。店を津波で流されすべてを失った後は、自宅に残っていたたこ焼き機とお好み焼きの鉄板を持って、県内各地のイベントや祭事会場を回り、暮らしを支えてきたという。「その頃に、『早く本業を再開して』と声をかけられたのが原動力になりました」と川村さん。

震災から4年を経て構えられた本店舗

震災から4年を経て構えられた本店舗

本店舗をオープンさせた日には、お祝いを持って駆けつけてくれたお客さんもいたとか。「震災前は、お客さんにおいしいものを出せているかどうかだけが関心事でしたが、震災を経て、私たちは“食”を通じて、お客さんとつながっていたのだな。食というのは、そういう力があったのだなということに気づかされましたね」と語る。

ダシに使う昆布やウルメイワシはもちろん、
牡蠣、メカブ、ワカメなどの食材は地元・山田産

さて、うどんはシンプルに釜揚げうどんを、三陸らしくメカブだれでいただいた。ねっとりとしたメカブが、うどんにダシじょうゆが絡みつくのを助けている。うどんは、打ち立て、茹で立て、揚げ立ての釜揚げ屋流“三立て”を大事にしていると川村さん。しっかりしたコシと喉越しの良さは、確かに讃岐うどんにも負けないおいしさだった。

釜揚げうどん(めかぶだれ)

釜揚げうどん(めかぶだれ)

うどんの麺は、「南部地粉」「ねばりごし」を主原料に、粘りの少なさを補うため北海道産小麦粉をオリジナルにブレンドしたものを使用。ダシは山田町に接する重茂半島産の昆布と、山田産のウルメイワシなどから取られている。タレには盛岡市のキボシ醤油を使用し、メカブはもちろん地元山田産。今でこそ、地産地消流行りだが、川村さんは、昭和60年(1985)の開業当時から地元産、県内産にこだわってきた。

「一度は東京で会社勤めをしたこともありますが、料理に興味を持ち、調理師学校に通ってこの道に入りました。レストランやペンションのコックもやったことがありますが、Uターンで帰ってこようという時、おしゃれな店よりも庶民的な店がいいなと考えたんです。どこにもない店をと考え、地元産の食材にこだわることにしました」。原料の出どころの確かなことへの安心感、そして信頼感がさらにおいしさを募らせているように思える。

マリンレジャーと復興かき小屋など、
観光と食を結びつけた魅力づくりで山田町の復興へ

ところで、川村さんは、関西人も驚くほどの粉もん好きだ。そもそも、川村さんが代表を務める菓子工房「川最」は、江戸時代から山田町に伝わる郷土菓子「山田生せんべい」の製造元でもある。保存料や着色料などの添加物を一切使わず、昔ながらの製造方法で作られてきた。

釜揚げ屋」に隣接して川村さんの弟・上林幸正さんがパティシエを務める「パティスリーKawasai」では、山田生せんべいと同じ原料を使った「山田せんべい ロール」で、やはり「ねばりごし」や「ゆきちから」、そして岩手県西和賀産米粉など地元産の粉に こだわった商品づくりを行っている。

何より、川村さんのこだわりの麺づくりは、冒頭で紹介した大槌町の仮設食堂「よってったんせえ」の新レシピで使用されたオリジナルのワカメ麺をはじめ、山田特産の海藻あかもくを練り込んだ「あかもくうどん」など、三陸を前面に打ち出した食の開発に貢献してきた。

「近い将来、地域の子どもたちに向けて “食育”という観点から、家では教わることのない地元産の原料を使った粉やダシの話をボランティアでしたいと思っているんです」と川村さん。2年前にUターン帰郷した息子さんが山田湾シーカヤッククルーズで開業したのを機に、こうしたアトラクションと食を結びつけた展開で山田町の復興を果たせないかと考えている。「震災後は、自分の店のことだけでなく地域でつながっていかなければと考えるようになりました」。現在は、復興かき小屋の本格的な稼働に向け、漁師さんたちと連携を模索中だ。

山田生せんべいとあかもくうどん

山田生せんべいとあかもくうどん

隣接する「パティスリーKawasai」で作られている「山田せんべいロール」

隣接する「パティスリーKawasai」で作られている「山田せんべいロール」

 

 

【釜揚げ屋】

☎0193-82-2173

住所:岩手県下閉伊郡山田町山田4-5-1

営業時間:11:00〜15:00(うどんがなくなり次第、閉店)

定休日:月曜日

駐車場:有

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