何億年という長い年月のなかで営まれた大地のダイナミックな活動により、三陸地域は独特の地形や地層を作りあげてきた。ギザギザと入り組んだ入江や点在する奇岩、島などが特徴的で、地理の授業で「リアス式海岸」と習ったことを思い出す。

岩手県大船渡市の末崎半島、その東南部の約6kmにわたる海岸線「碁石海岸」もまた、数々の奇岩や断崖絶壁が連なる絶景ポイントだ。その迫力の景観を海上から間近に体感できるというので人気の「碁石海岸穴通船」が、震災後、平成26年(2014)の夏に再開した。

50年近くの歴史をもつ碁石海岸遊覧船
ワカメ漁のオフシーズンに営業

「碁石海岸穴通船」の乗り場、碁石海岸のえびす浜に、碁石小型観光遊覧船組合の組合長・大磯正一朗さんを訪ねた。浜には小型の和船、サッパ船が係留されている。遊覧船の船頭さんたちの本業はワカメの養殖漁師なのだ。遊覧船は、ワカメ漁の終わる5月から11月にかけて営業されている。

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碁石小型観光遊覧船組合の大磯正一朗組合長と尾崎芳徳さん(えびす浜で)

いつ頃から始まったものなのか尋ねてみると、「おらの先輩たちからやってんだからす(やっているんだから)、なんだかんだって50年ぐらいなんでねえの。もとは動力のついてねえ手漕ぎの木の船で、その頃はあっちゃ(穴通磯)までは行けず、この辺を乗せてまわってたんだもす」と大磯さん。穴通磯(あなとおしいそ)まで遊覧できるようになったのは、船にエンジンが積まれるようになってからということだった。
それにしても、大磯さんの気仙なまりの言葉が楽しい。井上ひさし氏が著した小説『吉里吉里人』に登場する吉里吉里語そのままだ。今回、三陸をめぐったなかで、大磯さん以外にこの言葉を話す人とは出会わなかった。もう消え去りつつある言葉なのだろうか。
さて、東日本大震災前の最盛期には、10隻の船で営業していたこともあったというが、今は5隻で対応している。

「津波で船流されたりしたさ、漁師も高齢化して、今さら船を買ってまでしてやらねえ」と(大磯さん)。遊覧船を利用する観光客も、被災地への遠慮からだろうか、震災前の数まで戻っていないという。とはいえ、碁石海岸は「国の名勝・天然記念物」に指定されているうえ、平成25年(2013)には、宮城から青森にかけての三陸ジオパークとして、「日本ジオパーク」にも認定された。世界的にも稀有な地形や地層から、地球活動の歴史などを体感的に学ぶことができるというので、旅行会社からの団体申し込みもあり、その時は組合員が総動員で対応している。

 海を知り尽くした船頭さんたちのガイドで
迫力の碁石八景めぐり

外海に面する三陸では、遊覧船の運行も天候次第だ。台風でなくても海が荒れて波が高くなったり、霧が出て視界が悪くなったりすれば、予約があっても運行を中止することも。そこが、自然相手の難しさだ。

幸運にも波もおだやかな昼下がり、尾崎芳徳さんの案内で「碁石八景」と呼ばれる景勝地をめぐっていただいた。乗船者の年齢や構成によって船のスピードにも配慮されるとか。「小さいお子さんやお年を召した方が乗っていらっしゃったら、スピードもゆっくりですが、若い人などはスピードを上げると喜ばれますよね」と尾崎さん。本日のジェットコースターコースでは、波を蹴って飛ぶように速く進む。見渡せば、波間のあちらこちらに岩が頭を出しているが、それをうまく避けすり抜けていく。なかなかスリリングだ。大磯さんは「ここで生まれ育って、この海の地形ってえのが、勉強しねくっても肌身で覚えてしまってっからね、今まで何十年やってても、事故らすぅ事故は(事故らしい事故は)は起こしてねえの。海のようすは毎日違ってくるの、だから穴通磯も百回遊覧しても、百回操船方法が違うのす」と語っていた。

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尾崎さんの船で碁石海岸めぐりへ

ゴツゴツした岩が多いなかで、こんもりと丸い岩が眼前に見えた。巾着袋に似ていることから「巾着岩」と名付けられている。

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巾着岩

ウミネコが子育てをする岩だと尾崎さんに教えていただく。ヒナらしき姿も見えた。こうしたヒナを狙って、ハヤブサが飛んでくることも。海の生態系の豊かな三陸は、海上に暮らす動植物も豊かだ。

いよいよ、穴通船の一番のハイライト、「穴通磯」の穴を船でくぐり抜ける。海底から隆起した地層が奇景を構成している。

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穴通磯

続いて「乱曝谷(らんぼうや)へ。眼前に断崖絶壁がそそり立ち、そこに波が激しく打ち付けるさまは圧巻。海上からでこそ体感できる迫力である。

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約1億3000万年前の海底の地層が地殻変動によって隆起し、その後、長年の波の侵食で作り上げられた「穴通磯」

そこから波のうねりの大きい日には近寄ることが難しいという「雷岩」へ。洞穴があり、そこに波が打ち当たると中の空気が圧縮されて「ど〜ん」と大きな音が響く。それが雷鳴に似てこの名がある。

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乱曝谷

穴通船の船頭さんたちの言葉から学ぶ
三陸の自然の厳しさ、豊かさ、優しさ

「日本の渚百選」に選ばれ、現在、三陸復興国立公園にもなっている碁石海岸には、キャンプ場があるほか、展望台や遊歩道も整備されている。碁石海岸の名前の由来でもある、黒い玉砂利が美しい「碁石浜」は、磯遊びの格好のスポットだ。

このように表情豊かな景観を作りだしたのが、何億年も前からの地殻変動によるものだが、こうした入り組んだ海岸線ゆえに津波による被害を大きくしたとされる。
それでも、三陸の人々はこれまでこの海と生きてきて、そして、これからも生きていく。穴通船に乗りながら感じたのは、そのようなしなやかな生き方だった。
ぜひ、たくましく日焼けした船頭さんたちの船に乗り、気仙なまりのその言葉に耳を傾けてほしい。三陸の自然の厳しさとともに、豊かさと優しさについても語ってくださる。

【碁石海岸穴通船】

  • 人数:2〜40人
  • 所要時間:約40分
  • 期間:5月〜11月
  • 料金:1人2,000円(小学生以下は半額)
  • 乗り場:末崎町大浜

■問合せ・申込み:碁石海岸インフォメーションセンター
☎0192-29-2359

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