気仙沼を初めて訪れたのは昨年の震災後3年目だった。夜、津波をまぬがれた駅前のホテルから市街地へ向って坂を下ると、町の建物が途絶えたところから広がる暗闇に戸惑ったが、遠くにぽっかり浮かぶ不夜城のような灯りに近づくとそこが復興商店街だった。翌日の朝、その暗闇だったところに広がるむき出しのさら地となった被災地域を見たときのショックは忘れられない。フェリー乗り場に面した地区は高さ数メートルの津波に襲われて以来、被災したままの建物がそのまま残り、夜は一面の暗闇だったのだ。

ジャズ喫茶「ヴァンガード」は五十年近い歴史を持つジャズ喫茶で、建物自体は流されずに昔のままに戻ることができたようだが、店の人に聞くと津波はここまで来たと天井を指した。

ジャズ喫茶ヴァンガード

ジャズ喫茶ヴァンガード

今年、また、気仙沼に行く機会があり、ヴァンガードを訪れた。特にジャズファンというわけではないが、その喫茶店のクラシックな雰囲気とやはり重厚でしかも軽やかな音楽の空間は立ち寄った旅人にも優しい場所だ。夕方になると、常連のお客が入れ代わり立ち代わりやってきた。

ジャズ喫茶のあとは、ほど近い南町復興商店街をしばらくぶらぶらし、「あさひ鮨」に入った。平日のせいか、あるいは店舗が減ったのか商店街はもの静かだったが、このあさひ鮨だけはにぎわっていた。三陸の被災地にはこの4年間で全国から沢山の人が訪れ、自然、全国的有名店もできたのであろうが、このあさひ鮨もそのひとつではなかろうか。そういった人気の理由はカウンターに座ってしばらくするとすぐに分かった。まずレジのおねえさんが愛想よく気持ちよく、関西から来たらしい学生風の若い二人の男性客にも、彼らは学生らしく質素に寿司盛り合わせだけを食べて出て行ったのだが、また来てくださいとしきりに別れの挨拶をしていた。おねえさんはそうして全国からのお客を毎日迎え、送り出しているのであろうが、その言葉やしぐさにぬくもりが感じられ、お客の方がほんのりとしたものを感じながら店をあとにするのだ。

メニューを見ると、「復興スペシャル寿司盛り合わせ元祖ふかひれ寿司入り1800円」と大書してある。ためらわずそれを注文すると、盛り合わせ一人前が大皿にのってカウンターを占領した。

復興スペシャル寿司盛り合わせ

復興スペシャル寿司盛り合わせ、左端が元祖ふかひれ寿司

張り紙に「さんまの3貫セット400円」とあり、カウンターの内側の人に聞くと旬のサンマの「炙り(あぶり)・しょうが・酢みその三点セット」だという。これもためらわず注文。全国有数の水揚げを誇る気仙沼漁港のおひざ元で味も格別。ふところにも優しい寿司屋である。カウンターで寿司職人の話を聴いていると、この十月には新しい店に移転するという。復興商店街そのものがなくなるようだ。急ピッチで進むかさ上げ工事、様変わりする中心市街地、地方の町にかつてのにぎわいは戻るのだろうか。三陸の町はどこも水産の町だ。現在の街を見たうえで、そして新しい三陸にまた来たい。

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