女川町の観光案内のブックレットの表紙に笑顔で試食をすすめる女性の顔がある。女川では知る人ぞ知る“おかあさん”阿部すが子さんだ。この阿部さんに会いに水産加工会社「マルキチ阿部商店」を訪ねた。サンマを使った昆布巻き「リアスの詩」は農林水産大臣賞受賞の女川を代表する逸品だ。

工場の玄関で出迎えてくれた阿部さんは、「リアスの詩」と書かれた大きな木製の看板を指さして「マリンパル女川の2階で見つけたの。知り合いに頼んで綺麗にしてもらって」嬉しそうに説明してくれた。一度津波にのまれた看板に込められた愛情と誇りがあふれていた。人を引き付ける力強い明るさを持った人だ。

0069ff0e60b40068f660d8822c1d8f7944f57217big すが子さんは2001年にご主人とご長男を立て続けに亡くした。その悲しみの多くは語らない。そしてその10年後に東日本大震災が起こった。震災発生時は仙台港の夢メッセで「全国うまいもの大会」に参加していた。会場の上層階に避難し一夜を過ごした。浜で育ったすが子さんは津波の恐ろしさを幼いころから学んでいた。津波てんでんこ、自分の命は自分で守る。その教訓は震災でも生かされ、家族全員無事だった。

一夜明け、知人の車で5時間かけて戻った女川の惨状は凄まじかった。工場、自宅、関連施設のすべてが全壊、鉄骨さえも残っていなかった。幸いご主人が高台に建てていた家で家族や従業員は一緒に暮らすことができた。「鍋一つ、あとは昆布とさんまがあれば、腕一つで生きていける」。3か月後にはもう昆布巻きを作っていた。初めは野外で、そして小さいプレハブで、石巻、女川と拠点を移して作業をした。「作り方は頭の中にあるからねえ。材料があればどんな所でも作れる。雨の日はカッパを着て作業した」と笑顔で語るすが子さん。再建の見通しがつくと、すぐさま工場を建設した。女川で最も早く工場を再建した会社だ。「1日1日まちが変わっていく様子を見ているとハッピーな気持ちになる。絶対自然には勝てない。女川町には津波(防災)のモデルのまちになって欲しい」

3b7b8938750e72c603a19e016add82dd9d7a36bfbig作業の様子を見せていただいた。昆布を作業台にバランスよく置き、その上にサンマをのせて巻いていく。淡々と、しかし心を込め力強く巻く。地場の材料を無添加で、心に残る商品づくり。「心がなければね。」そして「働くことが好きだ。働くことによって生き延びる。断念してはだめだ。」と語るすが子さんの言葉は、幾つもの試練と困難を乗り越えた人だけが持つ確信と説得力に満ちていた。

00283ec1f9df73b7f7e258b38b14b3fbcac2af10big「大阪は昆布の本場、2012年出張販売した時にはたくさん買ってもらった。大阪の皆さんにはとても感謝しています、ぜひ女川さ直接足を運んで食べて行ってください。」

おみやげに頂いた昆布巻きを夕食に頂いた。すが子さんのことを思い出して、急に涙が出た。モノを食べて泣いたのは、多分初めてだ。

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